
民有地の緑を守り活かすため、地権者に対して社会資産としての緑地の価値を伝え、緑地を保全・活用する選択肢について再考するためのセミナーを実施した。本セミナーは、NPO法人 Green Connection TOKYOと杉並区の共催により実施した。当日は、多くの地権者が集まり、自身が所有する緑の価値について再認識する機会となった。
【イベント概要】
・日時:平成31年1月30日(水)13:30~16:30
・会場:井草地域区民センター 第1・2集会室(杉並区下井草5丁目7-22)
・参加費:無料
・参加者:16名(その他主催側スタッフ11名、他市区のオブザーバー 6名)
・主催:杉並区/NPO法人 Green Connection TOKYO
・後援:一般財団法人セブン-イレブン記念財団/東京都
・スケジュール:
・主催者あいさつ、参加者自己紹介
・杉並区「みどりの実態調査の報告」
・講演「緑や屋敷林などの地域資源を継承する方法とは」
講師:田村誠邦氏(㈱アークブレイン代表取締役)
・事例紹介「もみじの庭の事例紹介」
紹介者:尾形久美子氏(練馬区もみじの庭オーナー)
・参加者、ゲストの交流タイム
・閉会あいさつ
【主催者あいさつ、参加者自己紹介】
はじめに、杉並区都市整備部みどり施策担当課長の石森氏にご挨拶をいただいた。次に、NPO法人 Green Connection TOKYO代表の佐藤が、当団体と本セミナーの主旨につい紹介した。その後、スタッフを紹介し、参加者にグループごとに自己紹介をしていただいた。
【杉並区「みどりの実態調査の報告」】
杉並区都市整備部みどり公園課みどりの計画係の玉置氏に、杉並区みどりの実態調査についてお話いただいた。参加者は、配布資料をじっくり眺め、杉並区の緑の実態について理解を深めていた。また、会場内では農の風景育成地区に関するパネル展示を行い、休憩時間などに眺める参加者の姿が見られた。
<ご紹介いただいた内容>
・杉並区では、昭和47年から5年に一回みどりの実態調査を行っており、今回は10回目の調査となる。12項目の調査を行っている。これほど細かい調査を実施している自治体は珍しいと思う。
・航空写真の撮影により、区の緑にどんな変化があるか調べている。今回の調査結果では、緑被率21.77%だった。経年の変化で見ていくと、平成9年まで減少傾向にあったが、平成14年に大きく上がった。その後、増加傾向にあったが、29年度の調査では、前回の調査よりもわずかに減少している。
・杉並区の樹木本数は35,914本。地上高1.5m、幹の直径30cm以上の樹木をカウントしている。最も多い樹種はサクラで、その後、ケヤキ、イチョウ、シイ、カシと続いている。
・杉並区の樹林は、公園林がもっとも多く67.9ha。次に屋敷林が多く19.3ha。屋敷林も、杉並区の中では比較的大きな割合を占めているが、近年かなり減少しており、前回の調査の半分近くになっている。樹林とみなされる、まとまりのある緑が減ってきている。
・樹林が多い地域は、公園の多い成田。その他、まだ屋敷林が残っている井草や高井戸も比較的樹林が多い。
・調査結果は、「みどりの実態調査報告書」にまとめられている。図書館などで閲覧可能。緑被率の調査に使われた航空写真も区政資料室で販売を行っている。
【講演「緑や屋敷林などの地域資源を継承する方法とは」】
㈱アークブレイン代表取締役の田村誠邦氏 を講師に迎え、「緑や屋敷林などの地域資源を継承する方法とは」をテーマに講演いただいた。相続に関する具体的な事例や対策が紹介され、地域資源を活かし、継承していくための手段を、様々な視点から知ることができた。
<講演内容>
・生産緑地の2022年問題が迫ってきている。生産緑地法が施行された1992年に指定された生産緑地は、30年経った2022年に制度の期限が来て、行政に買い取りを申し出ることが可能になる。しかし、財政難から行政の買い取りは困難な場合があるため、大量の生産緑地が宅地化される可能性があり、緑が減少するおそれがある。
・人口減少や空き家率の増加等により、所有地にアパートやマンションを建てるといった、不動産経営は難しくなってきている。
・平成26年度の税制改正で相続税の基礎控除が6割に縮減され、相続税を課税される方の割合が大幅に増えている。また、相続にかかわるトラブルが増えてきており、遺産分割でもめないための相続対策が注目を集めている。相続対策として、分割対策、納税対策、節税対策の3つの対策を考える必要がある。分割対策が最も重要な対策で、次に納税対策、最後に節税対策を検討するのがよいと考えている。最近では、財産規模がそれほど多くない方の相続で、遺産分割に係る争いが数多く発生している。相続争いを避けるためには、しっかりとした遺言と、資産を分割しやすい形態で持っておくことが必要。相続対策には総合的なノウハウが必要である。アパートや賃貸マンションなどの貸家建設による相続税の節税は、もっとも一般的な相続対策だが、それが有効になるのは、賃貸事業自体が成り立ち、収益的なメリットが見込める場合のみ。
・地域資源を生かした不動産経営の事例として、深沢プロジェクト、求道学舎再生プロジェクトを紹介。どちらも、コーポラティブ方式により、入居者が借地権者として事業費を負担し、プロジェクトに巻き込んだことで成功した事例である。
・地域資源を活かす永続的な不動産経営を行うにはいくつか条件がある。場所とコミュニティが永続的な価値を造ること、入居者や利用者をプロジェクトに巻き込むこと、節税対策は目的ではなく、節税は結果として考えること、場所の永続的な価値を高める運営を考えること、永続的な不動産経営を可能にする資産承継を考えること、こういった条件が必要となる。
・信託とは、財産を持っている人が信託行為によって信頼できる相手にその財産の名義や管理処分権を移転させ、受託者は、委託者が設定した信託目的に従って、その信託財産の運用・管理・処分などを行うことで得られる利益を、受益者に与える仕組みのこと。屋敷や緑の保存や利用継続に関して、信託にはいくつかの効果が期待できる。委託者が屋敷や緑の保存や利用の継続を意図している限り、利用継続が図られる可能性が高いと言える。
【事例紹介「もみじの庭の事例紹介」】
もみじの庭オーナーの尾形久美子氏に、練馬区もみじの庭を事例として紹介していただいた。
<概要>
・もみじの庭のある練馬区大泉学園町は、学園都市構想に基づき1924年に1区画300坪、建ぺい率20%というみどり豊かな住宅街として開発され、風致地区にも指定されている。もみじの庭があるのは大泉学園町内の約1000平米の敷地。サラリーマンの父が、受け継いだ土地を維持するために二階建て10世帯のアパートを敷地内に建て、その家賃収入により維持している。
・周囲のみどりが減る中、街のみどりを守りたいと思っていたところ、みどりのまちづくりセンターの方にお声がけいただき、地域のみどりの魅力を再発見するオープンガーデンイベント「ちゃい旅」の仲間に入れていただいた。年2回庭を公開するようになり、自宅の庭を普段から地域の方にも楽しんでもらいたいという気持ちが募ってきたが、この先もこの庭を残していけるのか不安もあった。
・そんな中、一昨年行われた練馬区主催の「民有緑地の将来を考えるセミナー」でチームネットの甲斐先生のお話を聞いて感銘を受け、自宅の庭の活用法を相談することにした。庭には樹齢100年以上のもみじの大木に囲まれたスペースがあり、そこに新たな入り口を設けることにした。みどりのまちづくりセンターの呼びかけで20人ほどの方が集まり、一斉に笹刈りを行った。その他、車椅子でも入れるスロープをつくったり、門を設置したり、再整備を行った。その取組みを、第28回緑の環境プラン大賞に学園町ちゃい旅ガーデンプロジェクトとして応募したところ、「ポケット・ガーデン部門」で国土交通大臣賞に選ばれた。
・現在、晴れた日はほぼ毎日お庭を地域に公開しており、一歩道路から入ると、緑に囲まれ、風を感じ、小鳥のさえずりも聞こえ、どなたでもちょっとひと休みしていただけるような場所になった。季節ごとに、見頃の花木の紹介も行っている。
・落ち葉掃きは、近所の方に協力してもらっている。落ち葉で苦情を受ける方も多いと聞くが、うちの周りではありがたいことに快くみなさんで掃いていただいている。庭木の手入れは、家族で行っている。切った枝は、直径3センチくらいまでは、粉砕機でチップにして庭に撒いている。
・庭を整備し、地域に公開することで、さまざまな出会いが広がった。敷地内のアパートについても、お庭の風景を活かして一部リノベーションを行い、新たな利用が始まっている。みどりを残していくのは簡単ではないが、セミナーがきっかけで庭の利用価値が広がって本当によかったと思っている。
【参加者、ゲストの交流タイム】
参加者は3グループに分かれ、それぞれのグループに2名ずつスタッフが加わった。各グループで感想・質問をまとめ、発表を行った。
【閉会あいさつ(杉並区)】
最後に、杉並区都市整備部みどり公園課巻島係長から閉会のご挨拶をいただいた。民有の緑をどうやって守っていくのか、この機会にいろいろな情報を集めて、みなさんと共に民間の緑を守っていく方法を考え、施策に活かしていきたい、という言葉を頂いた。